電車で見かけたあるお婆さんの話

電車に乗って空いた席に座ろうとしたらどう見ても80歳近いお婆さんが乗って来たので席を譲りました。お婆さんをチラッと見ると顔の輪郭や痩せた頬、瞼が垂れて小さくなった目などおととし86歳で亡くなった母親に似ていて目が離せなくなりました。思い出の中の母親はいつも60歳過ぎの若い母親だったので亡くなる前の母親を久しぶりにリアルに感じられて涙ぐんでしまいました。するとお婆さんはどうしたことか駅でもないのに急に立ち上がりドアの方に歩いて行きます。驚いたことにドアの近くに杖をついて立っていた中年女性に席を譲りに行ったのです。

その杖の女性は席に座りお婆さんは手すりにつかまりながら立っていました。この年齢で席を譲る驚きと尊敬、この年齢の人を立たせている周りの人たちへの怒り、そして近くに母親を感じられる温かさに複雑な気持ちになりました。そもそも杖の人を立たせることがいけないのです。次の駅で空いた席をお婆さんに教えましたが、小学校高学年ぐらいの子供が座ってしまい、その次の駅で降りるまで席が譲られることはありませんでした。私に挨拶して電車を降りて行ったお婆さん。私も「お気をつけて」と声をかけました。電車が動き出すとお婆さんのピンクのスニーカー(多分子供用)を思い出して残りの人生の幸せをそっと祈りました。